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二次創作小説・オリジナル小説を掲載しております。

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レディ・バレンタインと始まりの時

暮れゆく大空の下――
弱々しくなりながらも持ち堪えてくれた最後の一頭を、大いなる海へ返す。
サラとアーロンは苦しげに顔をしかめながらも、諦めずに弾き続けた。
そして、ようやく一頭を海の中へ放すと歓声が沸き起こった。

「サラ!」

仲間たちから小さな悲鳴が上がる。
バツン! と鈍く重い音と共に、サラが砂浜に尻もちをついた。
サラのヴァイオリンの弦が切れた。
アーロンの弦もまた全てはち切れていた。

サラはヴァイオリンを胸に抱きながら、涙をポロポロとこぼして笑った。
嬉しさと悲しさが、一気に込み上げてきて笑えば良いのか、泣けば良いのか分からなくなっていた。
アーロンはヴァイオリンを片手に持ち、空いた腕でサラの肩を抱いた。

「私、やったんだよね。やり遂げたんだよね!」
「ああ」
「もう……落ちこぼれじゃ、ないよね」
「ああ」
「それなのに、もう弾けないんだ……もう……うぅ、う゛う……」

アーロンがしっかりと胸に抱くと、サラは大声を上げて泣いた。
この中で、果たしてどれだけの者が学園に残れるのだろう。裕福な家庭の子供ならヴァイオリンを新たに買えるが、中流家庭の子供が新品を購入できるかどうかは微妙なところだ。
そして、サラは親に言われていた。壊れたら、それで終わりだと。
サラのように覚悟を決めてきたはずの生徒たちも泣き崩れていた。
自分の一部を失ったような喪失感。それでも、心のどこかに誇らしさは残っていた。こんな自分でも救えるものがあったのだと思えた。それが、彼らの唯一の心のより所で、救済だった。






授業が始まる。
試験監督は二名で、そのうちの一人はフィオンだった。
バレンタインは正当な評価をしてもらえる安堵感に、ほっとした。

「以上で説明を終わる。これより試験を開始する。まず始めに――」

試験監督の声が教室に響いた。
グループ分の感想・評価カードが配られ、生徒たちも評価をつけていく。
突出した技術を持つ者、綺麗な音を出す者、リズムを乱す者。
普段は気にもしない一人一人の癖を見つけることができた。

 バレンタイン・ヴァスタ
 エルバ・ローウェン
 イ・ユリ
 ロイ・アスト

名を呼ばれて、各々が楽器をもって席を立つ。
教壇の前に立ち、着席する生徒たちを見わたす。そのなかには当然、バレンタインを敵視していた生徒もいる。サスの姿も見つけた。彼はバレンタインに小さく手を振った。
バレンタインはうなずき返す。

「それでは曲のタイトル、注目点、苦労した点などを説明してくれ。
 演奏を始めるのは、そっちのタイミングで良い」
「はい」

説明をするのはエルバの役目だった。
優等生らしく、物怖じもせずはっきりとした声で言い始める。

「私たちが選んだ曲は、作曲者メストール『ククリ』集より、『小庭の妖精』です」

教室が騒然とした。

「私たちがやりたかったことは、技術を高めることじゃありません」

エルバは表情を変えることなく、背筋を真っ直ぐ伸ばしたまま言い加えた。
自分なら怯んでしまいそうな場面なのに、エルバはすごい。
バレンタインは彼の物怖じしない姿勢に憧れた。

「技術が上がるにつれて、初心を忘れることがあります。
 レベルの高い曲に挑戦するのも悪いことじゃない、出来る事ならそうするべきでした。
 ですが、今回の弦楽四重奏は私たちにとって初めての経験です。
 個人プレイじゃ意味がない。そう、バレンタインが私たちに教えてくれました」

「へ?」

バレンタインは目を見開いて、エルバを見た。
バトンを渡された。
こういう場面が苦手だと分かっているくせに、あえてバレンタインの説明させようとする。
最後の最後まで、意地悪なエルバだった。







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前へ ≪ブログトップへ戻る≫  第47話 レディ・バレンタインとアンダンテ
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*Comment

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  • posted by つねさん 
  • URL 
  • 2013.01/24 17:49分 
  • [Edit]

Re: つねさん さん 

初めまして、こんにちは。
訪問&コメントありがとうございます。

お褒めの言葉を賜り、とても嬉しいです。
ここまで読むのは大変だっと思います。
ありがとうございました。ぜひ続きもご覧になってみてください。

ホームページを拝見させていただきました。
ファンレターが届くというのはすごいですね。
読者数と、そして雑誌への期待感が高いからだと思います。

改めまして、読んで頂きありがとうございました!
  • posted by デジャヴ 
  • URL 
  • 2013.01/24 18:40分 
  • [Edit]

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